漢方で言う「水毒」(体内の水分のアンバランス)から生じる病気はさまざまで、その症状に合わせて数々の処方があります。
代表的なものでは、『猪苓湯(ちょれいとう)』『五苓散(ごれいさん)』『苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)』『真武湯(しんぶとう)』などがあります。
中でも“駆水毒”(=水分の異常な偏りを駆逐すること)を考えるうえで、『五苓散』は、実用的にも理論上も注目される処方です。
その理由は、五苓散を構成する生薬のメンバーにあると考えられます。
五苓散の構成生薬は、「茯苓(ぶくりょう)」「猪苓(ちょれい)」「朮(じゅつ)」「沢瀉(たくしゃ)」「桂枝(けいし)」で、気剤(きざい:気を増して巡らす薬)を除くと、代表的な駆水剤(水分の異常な偏りを駆逐する生薬)が顔を揃えています。
以下、この4つの駆水剤の役割を考えてみます。
- 茯苓: 上焦(じょうしょう:体の上半身)に働き、胃の中の余計な水を去る。
- 猪苓: 下焦(かしょう:腎、膀胱)に働き利水、利尿作用を持つ。
- 朮: 全体的に利水、利尿作用を持つ。
- 沢瀉: 主として体全体の水の巡りをよくする。
この4つの生薬の役割を単純に加算してみると、ほとんど身体全体の水毒について守備範囲を持っており、 “水毒ならば駆水剤攻め”という力技だけではなく、桂枝(けいし)という気剤で気を巡らすことにより、副次的に水の巡りも良くするというテクニックにも、感心させられる製剤の一つです。
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