内科・漢方内科|横須賀市 久里浜
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ホーム > 過去のドクターコラム一覧 > 新型コロナウイルスへの漢方的考察(4)〜予防と治療


2020.5.24

新型コロナウイルスへの漢方的考察(4)
予防と治療


ストレス社会で生まれた補中益気湯

 補中益気湯は、中国の金時代、12〜13世紀に活躍した名医、李東垣(りとうえん)が著した『脾胃論』の中に出てくる有名な処方です。

補中益気湯が創製された時代は戦乱の世で、人々は常に飢えと寒さや酷暑に苦しみ、過労などやストレスにより精神的に不安な日々を送っていました。

それまで『傷寒論』に記載された処方などを用いて治療していましたが、病人の多くは体力や抵抗力が低下して、病に倒れている状態でした。

飲食の節制を怠ったり、酷暑や酷寒などの過激な環境下に身を置いていたり、常にストレスや不安、過労の状況下にあると、人は脾胃を損傷します。

「脾胃傷ららば百病由りて生ず」の如く、脾胃が虚弱になり傷つけば、気血生成の源が欠乏するので、五臓六腑を始め、全身に十分なエネルギーを行き渡らせる事ができなくなり、栄養を与えることができなくなります。

このため心身が虚弱になり、環境に適応したり、病気に抵抗するための正気が不足して気虚となり、各種の疾患に対応できなくなります。

そこで、脾胃を温補することを基本として、万病治療に役立てることを意図して作られた処方が補中益気湯です。

補中益気湯は、過労、不摂生、ストレス過多、虚弱体質、老齢、大病などにより、脾胃が損傷されて元気がなくなり、全身がエネルギー不足、すなわち「気虚」の状態に陥り、様々な機能低下や、虚労時に、代償性の見せかけの興奮状態によって起こる「虚熱」を生じたり、様々な病気に対する抵抗力が低下している状態、心気症的に鬱状態になっている状態など、多くの適応があります。

また、気虚の人は「中気下陷(ちゅうきかかん)」といって、気を上に昇らせる力が弱く、胃下垂や子宮脱などの内臓下垂を起こしやすいのですが、補中益気湯は、「中気下陷証」にも効果があります。

今回の疫病対策になるかもしれない漢方考察

 さて、巷では新型コロナウイルスCOVID19が大流行し都市機能が麻痺寸前です。我々の先祖も、過去に「疫病」を何回も経験しており、その名残は漢方薬の古典を読むと随所にも見られます。

我々の先祖も、過去に経験のない「疫病」に遭遇しては、その時々の知恵をしぼって対応したのでしょう。そこで今回の疫病対策になるかもしれない漢方薬を考察してみたいと思います。

まずは漢方特有の未病(みびょう)すなわち予防です。

すでにいくつかの論文にも発表されていますが、先に挙げた補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)などの、体を元気にする「補剤(ほざい)」が有効です。

補中益気湯は、私も愛飲し、また多くの患者や当院の職員にも服用してもらっていますが、毎年あれだけ多数の感冒やインフルエンザ患者に触れるにもかかわらず、私も職員もまず移されることがありませんし、患者さんからも「補中益気湯を飲むようになって、めったに風邪をひかなくなりました」という言葉を頂くことが多いです。

また、葛根湯と香蘇散(こうそさん)を一緒に服用する方法も、かなり効果を実感しています。

葛根湯は、後漢時代の『傷寒論』が原典であり、香蘇散は宋の時代に書かれた『和剤局方』が原典で、両者とも風邪の初期に用いますが、作られた時代が違うのと、採用されている生薬が全く異なるので、証(体質)が合えば、両者の相乗効果が得られると考えています。

新型コロナウイルス感染症と漢方薬

 中国では、「清肺排毒湯(せいはいはいどくとう)」が今回の疫病治療に使われ、実際に効果があったと報告されていますが、日本漢方と異なり、生薬の量がやたら多くて日本人にはまず服用できないと思われます。

代替品として、前述の麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)+胃苓湯(いれいとう)+小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)の合方が提示されていますが、私は新型コロナ肺炎の治療経験が無いのでよく分かりません。

ただ、複雑な感冒や、その他の症状にも、葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏を合方した柴葛解肌湯(さいかつげきとう)や葛根湯+清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)を合方した銀翹散(ぎんぎょうさん)に近い処方、五虎湯+二陳湯(にちんとう)を合方した五虎二陳湯(ごこにちんとう)などは、証(体質)が合えば効果を発揮しています。

コロナウイルス感染症ではありませんでしたが、これらの処方を、主に感冒やその類似疾患などの様々な患者に、証(体質)に応じて使用して著効を得た経験があります。

まだ、幾つかの合方や加減方があり、挙げればきりがありませんが、患者さんの証(体質)を見てからでないと処方ができませんので、これについてははっきりとしたことは断言できません。

ただ、日本漢方の立場から、また中医学(中国漢方)の立場から、日々情報が発信されており、今後、症状や病期に応じて有効な処方が出てくるものと思われます。

(院長: 小野村)




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